小説あとがき

秘密  短編あとがき

短編「秘密」をアップしました。読み切りです。幕末屯所時代のエピソード。

日常の一場面です。

冒頭で千鶴ちゃんと平助くんが読んでいるのは「耳嚢」に挿絵がついた黄表紙。「耳嚢」は奇談や噂話などを集めたもので、又聞をそのまま記してあるものです。古典落語に取り入れられた滑稽話もあって、江戸中期から後期にかけての、人々の風俗や生活が垣間見られる面白いエピソード集です。非常に奇妙奇天烈な話が多い。千鶴ちゃんは平助君と、「いぼ」や「魚の目」をまじないで直す方法をあれやこれやと探しては読み合っています。かなり「呪術的」な方法で面白い。小説の中で読んでいる部分は、耳嚢巻の六から引用しています。「秘密の鍵かけ」は私の捏造です。

斎藤さんと千鶴ちゃんは、細かな日常生活の積み重ねの上に、強い信頼が生れて互いに惹かれ合うようになっていきますが、一般的にみても「秘密の共有」というのは、関係性が親密になる要因となりそう。果たして、斎千設定の千鶴ちゃんは「秘密の鍵かけ」を斎藤さん以外の誰とするのかを考えると、誰も思い浮かばない。たぶん、斎藤さんだから秘密を打ち明けあってみたいと無意識に思ったのかも。左之助さんが偶然目にしてしまった二人は、かなり親密です。互いに全く自覚なく。

今回はいつになく饒舌な斎藤さんでした。

(ちゃんと話すときには、しっかり語るのが斎藤さんのいいところ)

小説内で、九歳の山口一が遊んだ「櫻木神社」は現在も本郷にあります。古地図でみると、江戸後期から明治初期は、境内が今よりうんと広かったようです。天神さんが祀られているので、この辺りは湯島天神とも繋がりがあるのかも。櫻木神社周辺は、斎藤さん散歩の一角です。